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松山地方裁判所 昭和31年(行)2号 判決

八幡浜市昭和通

原告

大塚旭

右訴訟代理人弁護士

菊池哲春

同市下松彰

被告

八幡浜税務署長

右指定代理人

越智伝

菊池義夫

楠木一男

蔦健一

天野定義

水上八郎

大塚敏治

右当事者間の昭和三十一年(行)第二号所得税更正決定取消請求事件につき当裁判所は左の通り判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十年九月二十日付で原告に対してした昭和二十九年分の課税所得金額を六拾四万七千九百円所得税額を金弐拾参万弐千円とする更正決定処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二十九年度所得税につき申告課税総所得を零として被告宛確定申告したところ、被告は昭和三十年九月二十付を以て原告に対し昭和二十九年度分の課税総所得金額を金六拾四万七千九百円所得税額を金弐拾参万参千円とする旨の更正決定をなし同月二十一日原告は右通知を受取つた。しかし原告には右の如き所得がないから被告の右更正決定は違法である。よつて右決定処分の取消を求めるため本訴に及んだ次第であると述べ、被告の本案前の抗弁に対し本件につき審査決定を経ていないことは、被告主張の通りである。しかし原告は右更正決定につき昭和三十年十月二十日被告に対し再調査の請求をしたが被告は同月二十八日付で右請求を棄却し翌二十九日原告は右の通知書を受取つた。そこで原告はこれを不服としてその後間もなく更に充分の調査をするよう口頭を以て被告に申立たが右申立は審査の請求と認められるべきである。勿論審査の請求は書面によることを要するものとせられているが当時原告は再審査請求に対する被告の棄却通知書にも何等不服申立方法の記載がなく書面によらなければならないことを知らなかつたので前記の如く口頭により申立をしたが斯る場合被告側としては書面によるべき旨指示するのが当然であるのに漫然之を放置したのであるから書面によらなかつたことの責は被告にある。その後相当日数を経ても国税局長より何等の沙汰がないのみならず被告は原告の電話を差押え更にその他の財産に対し強制執行をしようとする気配がある。従つて原告は審査決定を経ないで本訴を提起するにつき正当な事由があるから直ちに本訴を提起したものであると述べ立証として甲第一乃至第三号証を提出し、原告本人大塚旭の尋問を求め、乙第一乃至第三号証の各成立を認めた。

被告指定代理人は本案前の抗弁として主文同旨の判決を求めその理由として本訴は所得税法第五十一条第一項により国税局長の審査決定を経た後でなければ提起できない。しかるに原告は昭和三十年十月二十九日原告の再調査請求に対する被告の同月二十八日付棄却決定の通知書を受取つたのにかかわらず国税局長に対する審査の請求をしないまま審査請求期間である一箇月を経過して今日に至り従つて審査決定を経ないまま本訴を提起したものである。故に本訴は前記所得税法第五十一条第一項の要件を欠き不適法として却下すべきであると述べ本案につき「原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め答弁として原告の請求原因事実中被告が原告主張のような更正決定をしたことは認めるがその余の事実は全部否認すると述べ立証として乙第一乃至第三号証を提出し甲第一乃至第三号の各成立を認めた。

理由

先づ被告の本案前の抗弁につき判断するに本件につき審査の決定を経ていないことは当事者間に争がないところ原告がその主張の如く口頭を以て審査の請求をしたと認めるに足る証拠がなく、ただ原告本人尋問の結果によると原告は本件更正決定に対する再調査の請求につき被告から棄却決定を受けた後暫くして別件の滞納せる租税につき八幡浜税務署から呼出を受け係官からその督促を受けた際偶偶問答が右棄却決定に及び原告が単にこれに不平を述懐したに過ぎないことが認められるだけである。原告本人尋問の結果中このように不服を述べたので調べ直して呉れると思つていたとの供述部分は容易に措信できない。従つて口頭による審査の請求をしたことを前提とする本件につき審査の決定を経ないで訴を提起するにつき正当の事由があるとする原告の主張はその余の点につき判断を俟つまでもなく理由がないこと明かで結局本訴は所得税法第五十一条第一項本文に定める要件を欠き不適法であると謂わねばならない。被告の本案前の抗弁は理由があり本訴は却下を免れない。

仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 失野伊吉 裁判官 加藤龍雄 裁判官 篠原幾馬)

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